異常死の届出義務
医師法21条は「医師は死体または妊娠4ヶ月以上の死産児を検案して異常があると認めたときは、24時間以内に諸かゆ警察署に届け出なければならない。」と規定しています。
この規定は、本来は犯罪捜査の端緒となる協力義務を定めたもので、医療行為に関連した患者の死亡事故などが起こったときのことは想定していませんでしたが、事実上この規定によって医療関連死も警察に届け出ることを強制されています。
しかし、この規定は、憲法38条「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」という黙秘権と衝突する可能性もあり、届け出るべき異常死とは何かをめぐっては、多くの議論があります。
日本法医学会のガイドラインでは、
「基本的には病気になり診療を受けつつ、その病気で死亡することが『普通の死』であり、それ以外は全部『異常死』である」としています。
しかし、これではあまりに範囲が広すぎるという多くの批判があり、
外科学会ガイドラインでは
「重大な医療過誤の存在が強く疑われ、または何らかの医療過誤の存在が明らかであり、それが患者の死亡の原因となったと考えられる場合」に、届け出るものとしています。
最近出た福島地裁の福島県立大野病院事件判決の平成20年8月20日)では、
異常死とは「法医学的に見て、普通と異なる状態で死亡していると認められる状態であることを意味するから、診療中の患者が、診療を受けている疾病によって死亡した場合には、そもそも異常死の要件を欠く」「過失のない医療措置に起因して、死亡結果が生じた場合には異常死に当たらない」としています。
この判決は基本的に法医学会のガイドラインを踏襲し、医療措置に過失のない場合には届け出は必要ないとしています。
しかし、これでは、過失の有無を判断すること自体、きわめて難しいケースもあり、あまり役に立たない判例というほかありません。
この問題は、厚労省の第3次試案などで、医療安全調査委員会の議論としてなされており、今後の議論に注目したいと思います。
今のところは、「 医療水準から見て、著しい誤診や初歩的ミスがあった場合届け出るのが無難である」といわざるを得ませんが、具体的な問題が生じたときに速やかに弁護士に相談するのがよいでしょう。